「中途解約不可」「残期間分の違約金」に従う必要はない
——沖縄タイムス掲載記事の法的補足(HP制作契約トラブルの法律構成)

弁護士に相談する3つのメリット 的確な見通しが立つ 時間と精神的負担の軽減 経済的利益の最大化

令和8年8月25日付の沖縄タイムス(くらし面)に、ホームページ制作契約をめぐるトラブルについて、代表弁護士・福本龍之介のコメントが掲載されました。県内で料理教室を営む方が、8年間・総額約120万円の契約を「途中解約は原則不可」とされ、集客効果もほぼ得られなかった事例です。
記事では契約時の注意点を中心にお話ししましたが、このブログで最もお伝えしたいのは、その先の話です。結論から言えば、この種の契約は、多くの場合、途中で解約できます。そして、解約時に「残り期間分を全額払え」と言われても、そのまま従う必要はありません。「契約書に書いてあるから」と諦めて支払い続けている事業者の方にこそ、読んでいただきたい内容です。

1.「事業者」は消費者保護から外れる——だからこそ民法で考える

まず前提の確認です。個人事業主や中小企業が事業のために結んだ契約には、クーリングオフ(特定商取引法26条1項1号により適用除外)も、消費者契約法による誤認取消しや不当条項の無効(同法2条1項の「消費者」に当たらない)も、原則として使えません。信販会社経由の分割払いにしている場合、支払を止める「抗弁の接続」も事業者契約には原則適用がありません。
つまり、勝負は民法と契約の法的性質の分析になります。そして、ここからが本題です。

2.契約を分解すると、「保守」は準委任——いつでも解約できるのが原則

HP制作会社との契約は、一本の契約書になっていても、法的には二つの部分に分解できます。

• 制作部分(請負)——ホームページを完成させる仕事。完成・引渡しが済んでいれば、この部分の対価は支払う必要があります。
• 保守・管理部分(準委任)——完成後の更新、修正、サーバー管理など。月額で長期間支払い続けるのは、通常この部分です。

そして準委任契約には、民法656条が準用する651条1項により、委任者はいつでも解除できるという大原則があります。委任は当事者の信頼関係を基礎とする契約であり、信頼できなくなった相手に事務処理を続けさせられる筋合いはない、というのが法の建前です。
「でも契約書に中途解約不可と書いてある」——ここが誤解の多いところです。判例は、この解除権を簡単には奪わせません。
最高裁昭和56年1月19日判決(民集35巻1号1頁)は、受任者の利益のためにも締結された委任契約であっても、委任者が解除権自体を放棄したものとは解されない事情があるときは、やむを得ない事由がなくても651条により解除できるとしました。委任者の意思に反して事務処理を継続させることは委任の本旨に反し、受任者の不利益は損害賠償で填補すれば足りる、という考え方です。
下級審もこの線で一貫しています。東京地裁平成22年9月14日判決は、契約期間1年・自動更新の税理士業務委託について、専属スタッフを採用していた事情や、解約時には残存期間分の報酬を支払う旨の当事者間のやり取りがあった事案ですら、解除権の放棄を認めず、約2か月の予告を置いた解約を有効としました。神戸地裁平成2年7月17日判決も、3年の契約期間と逸失利益賠償条項のあるコンサルタント契約について、期間や賠償の定めがあるだけでは足りず、期間満了まで契約を継続させる意思を認めるべき客観的・合理的理由が必要だとして、中途解約を有効と判断しています。
期間の定め、自動更新条項、違約金の定め——これらがあるだけでは、解除権の放棄にはならない。これが判例の到達点です。8年間の保守契約であっても、保守部分が準委任である限り、相当の予告期間を置いて解約通知をすることは、法的に十分成り立つ選択肢です。

3.「残期間分を全額払え」に従う必要はない

解約すると、業者側からは「残り期間分の料金(違約金)を支払え」という請求が来るのが通例です。しかし、ここでも判例は事業者側に立っています。
651条2項は、相手方に不利な時期に解除した場合の損害賠償を定めていますが、東京地裁平成19年6月12日判決は、有償委託が中途解約されたこと自体は「不利な時期」の解約に当たらず、賠償すべき損害も解約それ自体から生じる損害ではなく、時期が不当であったことから生じる損害に限られるとした上で、残期間の委託料相当額の請求を「まさに解約そのものによる損害」だとして退けました。1か月の予告期間を置いた解約であれば、特に不利な時期の解約とはいえない、とも判示しています。
現行民法651条2項2号も、受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任の解除に賠償を認めるにとどまり、月額報酬の定めがあるだけでは「受任者の利益」に当たらないというのが判例法理です。つまり、残期間の報酬相当額を丸ごと支払わせる根拠は、651条からは出てきません。
残期間全額の違約金条項が置かれている場合も、いつでも解除できるという651条の趣旨を実質的に骨抜きにする内容は、その効力が制限され得ます。定型約款であれば信義則に反して相手方の利益を一方的に害する条項として合意しなかったものとみなされる余地(民法548条の2第2項)があり、暴利的なものは公序良俗(90条)の問題にもなります。
整理すると、解約時に支払うべきものは、①履行済みの役務の対価と、②解約の「時期」が不当であった場合の実損が原則であり、請求書に書かれた残期間分全額をそのまま支払う必要はありません。
一点だけ注意があります。制作代金を信販会社やリース会社経由の分割払いにしている場合、制作会社との保守契約を解除しても、信販会社等に対する制作代金部分の支払義務は当然には消えません。どの契約を誰と結んでいるかの分解が、ここでも出発点になります。

4.それでも「契約前」が最善である理由——立証の壁

ここまで読むと「後からでも何とかなる」と思われるかもしれませんが、実務の壁は立証です。
「効果が出ますよ」「修正はすぐやります」という営業トークは、録音やメール等の客観的な証拠がない限り、錯誤・詐欺や債務不履行の主張を組み立てる材料として使うことが極めて困難です。言った・言わないの争いになった瞬間、証拠のない側が負けます。また、「修正はすぐに対応」といった曖昧な条項は、相手の債務の内容を特定できないため、不履行の主張自体を難しくします。
だからこそ、契約前に、途中解約の条件・違約金の額を確認し、口頭説明との齟齬を潰し、曖昧な表現を具体的な数字に書き換えさせ、その日にサインしない。これが最も安く確実な防御であることは、記事でお伝えしたとおりです。

5.諦める前に、契約書を持ってきてください

すでに契約してしまい、「解約できない」「残額を払うしかない」と言われている方も、契約書を法的に分解すれば道が開けるケースは少なくありません。予告期間を置いた解約通知と、支払範囲を法的根拠に基づいて限定する交渉は、多くの場合、訴訟によらず書面で決着します。
弊所は企業法務専門の法律事務所として、契約前のチェックはもちろん、締結済み契約からの出口設計についても、顧問先の皆さまから日常的にご相談を受けています。「契約書に書いてあるから」と諦める前に、一度お持ちください。

弁護士法人 企業のための法律事務所THREEUP について

沖縄・那覇を拠点とする企業法務専門の法律事務所です。顧問契約を通じて、契約書の作成・審査、労務管理、債権回収、事業承継・M&A、紛争対応など、経営に関わる法務を継続的にサポートしています。 「顧問弁護士を検討している」「今の契約書や社内規程に不安がある」という経営者の方は、お気軽にご相談ください。

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