その「業務委託」、実は「雇用」ではありませんか?
「労働者性」判断の境界線

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「業務委託契約だから、社会保険も残業代も関係ない」――。
沖縄県内でも、コスト削減や労務管理の簡素化を目的として、実質的には従業員と変わらない働き方をさせているにもかかわらず、形式的に「業務委託契約」を締結している事業者が少なくありません。しかし、契約書の名称がどうであれ、働き方の実態が「雇用」と判断されれば、事業者は労働基準法をはじめとする労働法規上の重い責任を負うことになります。本稿では、「労働者性」がどのように判断されるのか、その基準とリスクを具体的に解説します。
契約の名称ではなく「実態」で判断される
法的な「労働者」に該当するか否か(労働者性)は、契約書のタイトルや当事者間の呼称ではなく、客観的な勤務の実態に基づいて判断されます 。労働基準法第9条は、「労働者」を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定義しており、この「使用される」関係(=使用従属性)の有無が最大の判断基準となります。
厚生労働省の研究会報告(昭和60年労働基準法研究会報告)では、この「使用従属性」を判断するための具体的な要素が示されており、裁判例でもこれらの要素が総合的に考慮されています 。
「使用従属性」を判断する具体的要素
労働者性が認められやすくなる、主な判断要素は以下の通りです。
仕事の依頼・指示等に対する諾否の自由の有無:会社からの業務の依頼を、事実上断ることができない関係にあるか。個別の仕事ごとに拒否する自由がなければ、労働者性は強まります 。
業務遂行上の指揮監督の有無:業務の進め方や内容について、会社から具体的な指示・命令を受けているか。勤務場所や勤務時間が指定され、管理されている場合も、指揮監督関係が強いと判断されます 。タイムカードによる勤怠管理や、詳細な業務マニュアルの存在は、労働者性を肯定する有力な事情です 。
時間的・場所的拘束性の有無:勤務時間や勤務場所が指定され、その時間にその場所で業務に従事することを義務付けられているか。自由に勤務時間を決められない場合は、労働者性が強まります 。代替性の有無:本人に代わって、他の人に業務を遂行させることが認められているか。自分以外の者が代替できない場合は、労働者性が強まります 。
これらの基本的判断要素に加え、以下の補充的判断要素も考慮されます。
事業者性の有無:高価な機械や器具を自己の負担で所有・使用しているか。自己のリスクで事業を行っている「事業者」としての性格が強いほど、労働者性は弱まります 。
専属性の程度:他社の業務に従事することが事実上困難で、経済的にその会社に専属している状態か。報酬に生活保障的な要素が強いほど、労働者性は強まります 。
その他:報酬が、労働の対価としての「賃金」の性質を持つか。源泉徴収や雇用保険の適用の有無なども参考にされます。
近年の裁判例では、プラットフォームワーカーや英会話講師、劇団員など、多様な働き方においても、上記の実態に基づき労働者性が肯定されるケースが増えています 。
偽装請負のリスク:単一のミスが複合的な債務を生む
もし「業務委託」が「雇用」であると判断された場合、事業者が負うリスクは甚大です。これは単一の問題ではなく、複数の法領域にまたがる複合的な負債となって事業に重くのしかかります。
社会保険・労働保険:過去に遡って、厚生年金保険料、健康保険料、雇用保険料、労災保険料の事業者負担分を支払う義務が生じます。
未払賃金:労働基準法が適用されるため、時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金(残業代)の支払い義務が発生します。これには遅延損害金や、裁判所の命令による付加金が課されることもあります。
年次有給休暇:法律で定められた日数の年次有給休暇を付与する義務が生じます。
解雇規制:契約を終了させるには、労働契約法上の厳格な解雇規制が適用されます。安易な「契約解除」は「不当解雇」とされ、多額の解決金を支払うことになる可能性があります。
安易なコスト削減を目的とした業務委託契約の利用は、結果的にそれを遥かに上回る財務的リスクを抱え込むことになりかねません。重要なのは、契約の形式ではなく、指揮監督の実態です。自社の契約関係に少しでも疑念がある場合は、速やかに専門家による診断を受けることを強く推奨します。